“カンヌ映画祭”で注目の河瀬直美監督が発掘した女優たち なぜ彼女たちは成長する!?

#西吉野#尾野真千子#カンヌ映画祭#キャスト#水崎綾女

タレメREPORT2017年6月12日9:50 AM

『光』でヒロインを演じる水崎綾女 / (C)2017 “RADIANCE” FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、KUMIE

河瀬直美監督の映画『光』が、先月行われた『第70回カンヌ国際映画祭』で“エキュメニカル賞”を受賞し話題となりました。本作では主演の永瀬正敏さんとともに、ヒロインを務めた水崎綾女さんの演技も高評価を受けました。

河瀬監督はキャスティングにおいて、ベテランの人気俳優だけでなく、実績が多くない俳優、時には全く無名の新人や一般人を抜擢するケースもあります。そんな河瀬監督に抜擢された女優を紹介するとともに、彼女らを育てた河瀬監督の独特の演出方法についても触れたいと思います。

『光』で女優としての魅力が開花した水崎綾女

河瀬監督に抜擢された女優でまず記憶に新しいのが、『光』のヒロイン・水崎さん。水崎さんは、2004年『第29回ホリプロ タレント スカウト キャラバン』で特別賞を受賞したことをきっかけにデビュー。当初はグラビアアイドル的な活動が目立ち人気者になりました。そして2006年頃から女優としても積極的に活動。以来、多数の映画、ドラマ、舞台に出演してきましたが、女優としてはなかなかブレイクには至りませんでした。

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そんな中2013年、映画『ユダ-Judas-』のオーディションで3000人の中から選ばれて映画初主演。水崎さんは、主人公のキャバクラ嬢役を演じるため、1ヶ月で10キロのダイエットに励んだといいます。

今回『光』では視覚障碍者向けの映画の音声ガイドを制作している女性・美佐子を演じている水崎さん。仕事に、家庭の問題に必死に向き合い、そして仕事で出会った雅哉(永瀬さん)とも真っ正面から向き合う姿が感銘を呼んでいます。劇中で使われた音声ガイドは水崎さん自ら書いていたとのこと。この作品では、まさに役柄の美佐子として生きていた感のある水崎さんです。本作での好演で、出演のオファーが次々と舞い込んでいると聞きます。

奈良・西吉野の普通の中学生が監督のスカウトされ主演女優に 尾野真千子

河瀬監督が一躍世に知られるきっかけとなったのが1997年、『萌の朱雀』が『第50回カンヌ国際映画祭』で“カメラ・ドール”(新人監督賞)を史上最年少で受賞したことでした。この作品に出演したのは尾野真千子さん。奈良県の西吉野村を舞台にしたこの作品で、ロケハンのために村を訪れた監督が、中学校の下駄箱で掃除中の、当時中学3年生だった尾野さんに声をかけ、いきなりメインキャストに抜擢しました。これが、のちに人気女優となる尾野さんの女優デビューのきっかけでした。

俳優の知名度に頼るのではなく、その地域に生きる無名の人たちの生の姿を映像化する河瀬映画において、このような形で、地元の一般人をメインキャストに抜擢することは大きな特徴です。そして、尾野さんは10年後の2007年に公開された『殯の森』に再びメインキャストとして出演。10年前、一般の中学生だった尾野さんは、大人の女優として成長した演技を見せています。この作品では『第60回カンヌ国際映画祭』にて最高賞“パルムドール”に次ぐ“グランプリ”を受賞しました。

なお、この作品で主役に抜擢された、うだしげきさんはプロの俳優ではなく、奈良にある古書店の店主で文筆家。河瀬監督の映画のスタッフとして手伝っていたところ、俳優として抜擢されました。もちろんこれが演技初体験のうださんでしたが、その存在感で、作品にリアルさ、説得力を与えていました。

河瀬作品でブレイク後、再び女優として注目され始めた阿部純子

2014年に映画『2つ目の窓』で主役に抜擢された阿部純子さん。当時は「吉永淳」の芸名で女優活動していました。みずみずしい演技が評判になり、同作で第4回サハリン国際映画祭主演女優賞などを受賞するなど、女優として一躍脚光を浴びました彼女。その後芸能活動を停止。アメリカに留学しニューヨーク大学演劇科で学び、昨年本名「阿部純子」として女優復帰。最近ではNHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』、ドラマ『4号警備』(NHK)に出演しています。

デビューから15年  念願かない河瀬監督作品への出演となった早織

今回、映画『光』で視覚障碍者で主人公・雅哉(永瀬さん)とともに音声ガイドのモニター会に参加する石田早織役を演じる、女優の早織さん。2003年、中学生の時にデビューした彼女は、デビュー前のオーディションで河瀬監督と対面したことをきっかけに、本格的に女優になりたいと志したといいます。いつか河瀬監督作品に出演したいと話していましたが、今回念願かなっての出演となりました。

その他『沙羅双樹』(2003年)では、メインキャストの女子高生役に、河瀬監督の高校の後輩で、当時まったく実績のなかった兵頭佑香さんが抜擢されたことも話題になりました。

近年の作品では、長谷川京子さん、永瀬正敏さんといった実績のある俳優を主役に起用するケースも増えていますが、それまでの彼らが持たれていたイメージとは異なる、俳優としての新たな面を河瀬監督によって引き出されています。

「役になりきって台詞を読む」からさらに進み「役として生きる」

河瀬監督の映画の現場では、今回の『光』の永瀬さんや水崎さんもそうであったように、俳優は「役を演じる」ということを超え、その「役として生きる」ことを求められます。

役者は少なくとも1週間前から撮影の現場に入って生活をするとのことで、その役者自身の生活環境から切り離し、映画の中の登場人物としての生活に切り替えます。永瀬さんのようなベテランでも『光』のクランクイン前から奈良にある雅哉(役名)のアパートで暮らし、視覚障碍者の雅哉として不便に感じることなどを身をもって体験したといいます。

ただ役を演じて「台詞」を読むということではなくは、役自身として生きる。役者自身がその場で素で喜んだこと、戸惑ったこと、怒ったこと…その様子をそのまま使うことも珍しくありません。現場での監督や出演者とのやりとりの中でどんどん台詞が変わることもあれば、役者同士の素の状態でのやりとりをそのままカメラでとらえることもあると聞きます。だから、河瀬作品ではその役者の人間性が実にリアルに出ることになります。

役者はこうした“河瀬演出”を経験することによって、ただ「役になりきる」というところから、さらに深く追究して、「役として生きる」ことで、それまでの活動で知らない間に築いてきた殻をを脱ぎ捨てて、役と同化していきます。その経験は特に演技経験の少ない役者にとって、役者としてだけでなく、人間としても大きな成長につながります。

『光』のあと、早くも短編映画『パラレルワールド』が6月1日に公開されました。EXILE TRIBEとショートショートフィルムフェスティバル2017のコラボ企画『CINEMA FIGHTERS』の第1弾作品で、石井杏奈さんがヒロインを務めています。これまで学園ドラマなど数多くの作品に出演している注目女優の石井さんですが、河瀬演出を経験して女優としてまた一つ成長できたのではないでしょうか。

※河瀬直美さんの「瀬」の字は旧字体になります。

文/田中裕幸

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『光』
新宿バルト9、梅田ブルク7ほか全国公開中!
配給:キノフィルムズ
(C)2017 “RADIANCE” FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、KUMIE

 

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