番台が描く”風呂”マンガ話題

NEWS2019年11月14日9:30 AM

『ゆとのと』(C) Sasa Izumi / LINE

 銭湯を舞台に描かれる人情マンガ『ゆとのと』。画家の祖父を亡くした主人公は、祖父が生前に描き残した絵を見るために、大阪の銭湯を訪れる。そこで出会った男の子をはじめ、銭湯を経営する家族や街の人たちとの温かい交流を描く物語。ユーザーからは「心温まるお話です」「めっちゃほっこりしました」「なんか泣いてしまった…」などのコメントが寄せられている。この作品について、作者の泉紗紗さんに話を聞いた。

【漫画】「ええ湯やな」に思わずほっこり、番台から見た風景とは…

■実家が銭湯で「子どもの頃から当たり前だった」風景 SNSで“懐かしい”の声

 泉紗紗さんは本作で漫画家デビュー。実家が銭湯を経営しているそうで「銭湯は自分に一番近い題材。自分が暮らしてきた空間で感じることや、伝えたいこともあったので、銭湯を選びました」と話している。

――『ゆとのと』は、どのように着想されましたか?
【泉さん】以前お世話になった漫画家さんに「実家が銭湯なら、銭湯のマンガを描いてみたら?」と提案していただき、とりあえず1話を描いたのがきっかけです。最初はゆま(小学生の男の子)の原型となる人物が主人公で、銭湯を経営する家族がメインでした。ですが、編集担当さんと連載作品として作り上げる過程で、主人公を東京から来た女性にしたり、家族構成を変えたりして展開させていきました。

――アメちゃんをくれるおばちゃんや、うまい棒をくれるおじいちゃんにはモデルがいるのですか?
【泉さん】たくさんモデルがいます(笑)。女性のお客さんが多いのですが、お菓子をくれたり、晩ご飯のおかずを鍋ごとくれたり、お土産をくれたり。常連のおじさんがパチンコでとった景品のチョコやジュースをくれることも本当にあります。

――お風呂の描写について、どんな工夫をされていますか?
【泉さん】コマ運びやコマで間を空ける表現を大切にしています。お客さんがたくさん入浴している場面なら「ざざー」とお湯が流れる効果音を使ったり、その時々でどういう音が良いのかを考えています。ほわっと出る湯気の温かさは、やはり浴室の扉を開けた瞬間が一番感じられるので、その場面は特に意識して描いています。

■関西と関東で大違い 共通だと思っていた「銭湯あるある」地域差に気付く

 物語の舞台である銭湯の描写についても、「お湯のにおいと洗面器のかこん、と響く懐かしい音が聞こえてきた!」「これ見たら、銭湯でゆったりしたいと思った」「お風呂あがりのジュースの描写がウマい」などユーザーからは好評だ。コメントに「近くの銭湯で見たことがない」と書かれ、銭湯にも地域差があることに気づいたそう。

――マッサージチェアなど、古き良きグッズを描きこんだ理由は?
【泉さん】一般の方から見ると珍しいものになっていますが、私は子どもの頃から当たり前に目にしてきて、今も日常の中にあるものです。こういうものを描くと、読者の方は逆に新鮮に感じて面白いと思ってくれるかなと考えました。

――お風呂上がりのジュースの描写には、こだわりがありますか?
【泉さん】とにかくお風呂上がりに飲む飲料はすごく美味しい!というのを伝えたかったです(笑)。特に小学生の少年、ゆまが飲んでいる姿は、私の気持ちを代弁してもらえるように描きました。

――銭湯の「ここが苦手」だと感じたことはありますか?
【泉さん】子ども時代、銭湯の床を歩くのが少し苦手でした。歩くと床のタイルが痛かったり、ちょっと石鹸で滑りやすくなっていたので、つま先立ちで歩いていた時期があります(笑)。大人になって浴室掃除の手伝いをするようになってからは、お風呂に愛着が湧いて、そういう抵抗はなくなりました。

――ご実家以外の銭湯を訪れて驚いたことは?
【泉さん】東京の銭湯に行ったら、タイルや床が白い素材のものでした。大阪は模様や色がついている銭湯が多く、全然違うんだなぁと驚きました。また、同じ銭湯は一つもないことを実感しました。お店の雰囲気もそうですが、銭湯一軒一軒に独自の色があって面白いです。

■現代のお客さんは「老若男女を問わず、つながりを求めて銭湯に来られます」

 今も実家の銭湯で番台をやりつつ、マンガを描いているという泉さん。「お客さんは、昔から来てくれている方がほとんど。私のマンガを読んでくれた常連さんは、本を買って『サインして』と持ってきてくれたり、感想を言ってくれたりします」と、日常の中で、銭湯ならではの近いつながりを感じると話す。

――最近の銭湯事情を教えていただけますか?
【泉さん】実家の銭湯は高齢の方が比較的多いです。配偶者を亡くされてお独りの方や老々介護の状態の方々が集まって、会話や交流を楽しむ。ストレス発散やつながりの場所になっていると感じます。大きな湯船を求めるというより、つながりのある場所を求めて来られるのだと思います。一方、若い知人が経営している銭湯では、若い人たちにもっと銭湯の面白さを発信していこうといろいろな試みをされていて、ご高齢の常連さんと10~30代の若い新規のお客さんが一緒くたになっている空間になっていました。どちらも同じ、つながりの場になっていることは変わらないと思います。今後、『銭湯は高齢のお客さんばかり』とは一概には言えなくなると思います。

――「古き良き」銭湯が減っていることについては?
【泉さん】寂しいと苦しいが織り交ざった感情があります。自分にとって居場所だったところがなくなっていくのは苦しいですが、経営を維持することの難しさは十分に知っているので、『お疲れ様です』という慰労の言葉が大事だとも思います。

■ユーザーからの愛あるコメントは執筆の原動力

 漫画好きになったきっかけは様々だが、泉さんにとっては「幼稚園の時に買ってもらった『りぼん』だそうだ。趣味でマンガを描いていた近所のお姉さんの影響から漫画を描くようになり、将来を考え始めた。時を経て2017年、本作で念願の漫画家デビューを果たす。

――漫画を発表する際、紙媒体と電子媒体とで変えていることは?
【泉さん】『ゆとのと』は紙(単行本)になる前提で描いていたので、特に変えているところはありません。ただ、多くの読者の方がスマホでマンガを読んでくださっているので、意識して少しフォントを大きくしています。

――ユーザーからのコメントで印象に残っているものは?
【泉さん】「辛いときにこのマンガを読むと癒されます」というコメントが私の中でとても救いになっていて、次回も頑張って描こうという原動力になります。また「昔行った銭湯を思い出しました」「このマンガを読んで久しぶりに銭湯に行きました」などのコメントを見て、すごくありがたいと思いました。最終回も「いい話でした」と多くの方がコメントをくださって、最後まで走り抜けて本当に良かったと、寄せられたコメントを一気に全部読みました。

――『ゆとのと』を通じてどのような思いを伝えたいですか?
【泉さん】読んで、銭湯に行ってみようと思ってもらえるのが一番ですね。そして経営者の方々の日々の努力や工夫も、物語を楽しみながら感じていただければ嬉しいです。

――今後挑戦してみたい作品、描いてみたいテーマなどはありますか?
【泉さん】今、『ゆとのと』でお世話になった編集担当さんと一緒に、次回作の打ち合わせをしているところです。いろいろな作品を吸収して、自分が楽しい、伝えたいと思えるものを読者の方々にお届けできたらと思っています。

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