納棺師の母娘 故人見送り19年

#見送り#ご遺族

エンタメNEWS2022年5月31日7:30 AM

納棺師は故人だけでなく「“生きている人たち”へのケアをすることも役割」なのだという。

 映画『おくりびと』やドラマ化もされたコミック『死化粧師』などエンタメ作品でも取り上げられることのある“エンゼルケア”。ご遺体を清め、髪や顔などを整えて化粧を施すことを指すが、これを担うのが「納棺師」である。一言で“死”といっても様々だ。大往生、孤独死、事故や自死。どんな“死”においても人は、目の前の“死”に対し、嘆きや悲しみ、そして「生きるとは」「死ぬとは」「自分とは」など“実存”の問に思考や感情を揺さぶられることになる。「そうした遺された“生きている人たち”へのケアをするのも私たちの役割」と納棺師である斉藤敦子さんは語る。

【画像】納棺師・斉藤敦子さんのエンゼルメイクを施すための“七つ道具”から実際の現場風景まで

■納棺師としてのやりがい「ご遺族の悲しみの涙が安心の涙に変わっていく」

 斉藤さんは親子2代に渡って納棺師として働いている。彼女がこの仕事に携わったのは19年前。パートの仕事を探していてたまたま見つけた「人に喜ばれる仕事」の言葉に惹かれ、納棺師という職業も知らず、働き始めたのがきっかけだったという。まったく何も分からないまま働いていたが、そこにやりがいを感じ、より故人や遺族に寄り添いたいと独立。ご遺体のケア・メイクを専門とする「Isis(アイシス)」を立ち上げた。

 「当時まだ次女は小さく、長女と2人で働いていました。やがて次女が思春期に入り、私たちが食卓で交わす仕事の話を非常に嫌がるようになっていったのですが、その次女がコロナ禍でトラックドライバーを失職したことをきっかけに、今では同じ納棺師として、母娘3人で任にあたらせていただいています」

 この19年で1万件以上の“旅立ち”を見送ってきた。最初は母の仕事に否定的だった次女も母が故人に言葉をかけながらケアを施す姿に「天職だ」と尊敬の言葉を口にする。案件はひと月に約50~70件。先ほど語られた“やりがい”について問うと、「いかにも亡くなっていますといった外見の故人様が、私たちがお世話をすることで、すごくいいお顔になってきてくれる。すごく輝いてきてくれるのがうれしい」と語る。

「あとはやっぱり、ご遺族の悲しい涙が、安心した涙に変わる、その瞬間に立ち会えるのもうれしい。そこまで感動し、喜んでいただけるのか、と、こちらが申し訳なくなるほど。それと亡くなった方の人生を見聞きできる。それは実にドラマチックで、その方なりの唯一無二の人生があったんだと、彼らの最期のお世話をさせて頂くことにありがたさも感じています」

■「故人様は雄弁にお語りになる」故人と真剣に向き合うことで、その人が精一杯生きた証が見えてくる

 死者は言葉を発することができない。だが斉藤さんは「想像以上に、故人様は雄弁にお語りになる」とも比喩的に説明する。死化粧とはつまり、まるで生前の姿に見えるように処置や化粧を施すこと。そのためにはまず故人を知ることが重要となる。

「ご遺体の肉付きを見て、肉体労働に従事されていたのかな、農家をされていたのかな、とか想像します。ご遺族様のご自宅に行くこともあります。するとお好きなものが飾ってあったり、ご趣味のものも分かってくる。甘いものが好物だったとか、優しそうな人だったとか、すごく寡黙な感じだったとか、そういうお話をご遺族から聞いて個人様の生前の顔を引き出していきます。するとそこから故人様の人生が徐々に浮かび上がっていくのです。想像ではありますが」

 ほとんどの人は亡くなると顔がこわばる。斉藤さんたちは、まずマッサージをしてほぐしてゆき、微笑んでいるような安らかな表情に整えていくという。「なかにはご遺族様が、『父はこんなに笑ったことがなかった。いつも怖い顔だった。これは父ではない』などとおっしゃったケースもありました。そういった場合は口角を下げたりと、遺族様がイメージする故人様に近づけたりもします」

 つまり、斉藤さんの仕事は、単にご遺体をきれいにするだけではなく、遺族がイメージする“故人”、つまり生きていた時の雰囲気をほぼ完全に再現し、ご遺族にお別れして頂くことだ。

「エンゼルケアは大体、納棺前の1時間で終わりますが、それでも終わらない場合、もしくは非常に困難な時もございます。例えば、お顔が欠損してしまっている場合です」つまり孤独死で発見が遅れた遺体、電車に飛び込みバラバラになった遺体、焼死体、頭蓋骨に皮が張り付いているだけの元の顔が分からない状態のほぼミイラ化した遺体、交通事故などで陥没したり、一部がなくなってしまった遺体などだ。

■欠損の激しい遺体もできるだけ遺族のために生前の状態に近づけていく エンバーマーの仕事

 通常は男女差にほぼ差異はないという。蒼白になった顔色には、血色の赤味を足すことで自然な顔色に近づけていく。だが人は、常に健康に生をまっとうできるわけではない。

「お顔の欠損などにより、とても納棺式でお顔を披露できる状態ではなかったり、ご遺族が怖がってしまい、しっかりお別れできる状態ではない、そんなご遺体を、生前に近い、元気だった状態に修復していくのも私たちのお仕事です」

 お顔が凹んでいたら膨らませ、腫瘍などが大きく飛び出していればそれを削っていく。色が変わっていたらファンデーションで塗り替える。

「私たちは、ワックスや特殊な薬品を使用して復元していきます。生前のお写真などを参考にしながら、お鼻や唇を作っていきます。お写真がなく困ることもありますが、ほぼ生前の頃に近い状態に仕上げられた時はご遺族様に大変喜んで頂けます」

 それは素人目にはまるで特殊メイクの作業のようにも見える。ご遺体がバラバラの場合は、外科医のようにご遺体を縫合することもある。「身内の納棺は行わない納棺師もいらっしゃいますが、私は自分の父の納棺も行いました。どんなご遺体であっても、自分の身内だったら生前のようなお姿でお別れしたいと思いますよね。ですからご遺族の立場に立って私たちができることはやっていく。この仕事は、人によっては生理的な嫌悪感を持つ方もいらっしゃいます。それが原因で辞めていく人も多いですが、幸いにも、私はやりがいを感じてここまでやってきました」

 そんな斉藤さんでも、辛く思うことがある。それは“逆順”。端的に換言すれば、親より子どもが先に亡くなることだ。

■「死は忌むべきものではない」終活や自由葬など“最期のお別れ”多様化で死生観も変化

「60過ぎの方が亡くなり、90歳ぐらいのお母様が『私、子どもの死を見るために長生きしたんじゃないのに』とおっしゃったり、幼いお子さんが病気や事故でお亡くなりになったり…。そうした現場はとてもきついです。あとは自死をされた方。この仕事をしていて私が驚いたことの一つに、自死される方は、報道されてないだけで驚くほど多いということ。納棺式ではその悲しみが薄れるよう、自死の痕跡を消す依頼なども入ります」

 そうした“悲しみの痕”だけでなく、点滴痕や青あざ、変色した部分にも処置を施す。ただし、顔にもともとあった傷、あざ、ほくろなど故人を象徴するものは、故人本人が気にして隠していたという例外を除いて“生きた証”としてあえて残すのだという。

「ここ数年、終活という言葉が生まれ、故人様が生前に亡くなった時の準備をされることも多くなりました。エンゼルケアの生前相談される方やご自身で白装束を縫われていた方もいらっしゃいます。死は悲しいものですが、忌むものではなくなってきた感覚もあります。私にとって死は怖いものではない。それは終わりではなく、一つの区切り」

 昨今は無宗教ゆえの自由葬が増えてきた。仏教などでは魔をはねつける、また“死”を象徴する白装束に、三途の川の渡り賃の六文銭(現在、貨幣を納めることはNGのため、紙に印刷されたもの)などを持たせるが、自由葬では故人の好きだった服などであの世へお送りする。終活、自由葬と、日本人の“死”へ対する考え方も大きく変わりつつあるようだ。

「長くこの仕事をしていると私も慢心してしまうことがあります。そんな時に限って、例えば点滴痕から流血したり、口から体液があふれたり…。故人様が戒めてくれるんですね。死因も、生き方も皆違う。遺体の様子から、その人の歩んできた人生が見られ、それがすべて凝縮されたのが故人様。だから、私の一番の師匠さんは故人様たちです。

 また私たちは自分たちを“守りびと”と呼んでいます。本当の“おくりびと”って、ご遺族様やご友人じゃないですか。お送りする方たちが後悔なくお送りできるよう、私たちが故人を守ります」

 そんな斉藤さんは、ご遺体用の化粧品もプロデュースした。この商品がコンシーラーとして優れている(ただしその後の肌ケアは必須)とSNSで広く話題にもなった。

「最後に皆さんにお伝えしたいのは、決して諦めないでくださいということ。ご遺体の損壊が激しくても、私たちができる限り、生前のお姿に近づけます。何もしないでお送りすると、どうしても後悔が残る。ああすれば良かった、こうすれば良かった…ご遺族様が悩まれていては故人様も悲しみますよね。逆にきちんと故人様に向き合うことは、心が落ち着くことにつながります。生きている皆様におかれても、生きている素晴らしさを実感し、決して過度に死を怖がらず、素敵な人生を送れますようお祈り申し上げます」
(取材・文/衣輪晋一)

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