芸能人同士のハラスメントの実情

エンタメNEWS2020年7月31日8:40 午前

番組降板について「パワハラか?」と取り沙汰された梶原雄太 (C)ORICON NewS inc.

 先日、25年の長い歴史に幕を下ろした『快傑えみちゃんねる』(関西テレビ)。以前からキングコング・梶原雄太の降板が話題になっており、番組内でのパワハラが原因ではないかとの報道が、ネットやSNSでも注目されていた。芸能界、テレビの世界とはいえ、番組や水面下でのパワハラ的行為には敏感になる視聴者も多い昨今。「芸能界にパワハラは通用しない」との談もあるが、現状はどうか?

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■番組内でのいざこざ、“「うまく返したら」パワハラにならない?”は正しいのか

 キングコング・梶原が、出演していた『快傑えみちゃんねる』と『上沼恵美子のこころ晴天』(ABCラジオ)から降板。この背景には、放送はされなかったものの、『快傑~』収録において、上沼からの厳しい叱責があったと報道されていた。梶原の降板はこれが原因ではないかとの憶測が飛び交い、ネットやSNSでは「パワハラではないか?」との声が続々と挙がる事態となった。

 だがこの後、『快傑えみちゃんねる』出演経験の多い黒沢年雄が自身のブログに、“お笑い芸人なんだから何を言われようが受けて立つべき”、“芸人としてのチャンスを逃した”という内容を書き込み、メディアやネットの反応はさらに加熱。これらの騒動が影響したのかはさだかではないが、『快傑えみちゃんねる』は24日の放送をもって25年の歴史に幕を下ろすことが発表された。

 一方、2018年末の『アメトーーク!大賞』(テレビ朝日系)では、目を閉じて話す宮下草薙・草薙航基に中川家・礼二が「目を開けろ!」と発言。草薙が「テレビで怒らないで!」と懇願する場面があり、これが「礼二が草薙にパワハラをした」とSNSで話題になってしまった。翌年4月、同番組で再び共演した際に礼二が「草薙がパッと返してくれたらパワハラにならないのに」と苦言、草薙は「もうやめよう!」と絶叫して話題を遮断するという展開に。もちろん、計算された番組上の演出なのかもしれないが、礼二が「(いじったつもりがパワハラなんて)えらい時代ですよ…」と語っていた姿は印象的だった。

 以前は、黒沢が言うように、「いじられた時こそ芸人の腕の見せどころ」とされてきたが、現在では事情が違う。例えば、女性芸人の容姿をいじることに対し、視聴者が「セクハラだ」と声を挙げることも多い。また、かつて一斉を風靡した『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)の人気企画『男気ジャンケン』などに、「パワハラだ」とする声が挙がり始め、当時の石橋貴明の人気も急落。逆に、ぺこぱのような「人を傷つけない笑い」が人気を得ている。この背景には何があるのか。

「要因の一つに、世の中の実質的な変化があるかもしれません」と語るのは、芸能関連の相談を多く受ける、日本エンターテイナーライツ協会の佐藤大和弁護士。「一般のいじめ・嫌がらせの相談件数は年々増加していっており、平成18年度では22,153件だった相談が令和元年度では87,570件に(厚生労働省『個別労働紛争における「いじめ・嫌がらせ」の相談件数と割合』より)。実に4倍に増えているのです。一般社会ではハラスメントへの意識が非常に高まっているといえるでしょう」(佐藤弁護士/以下同)

芸能界も例外ではいられず、一般社会の動きと地続きになりつつあるといえる。パワハラへの意識が高く、敏感になった視聴者からすれば、いくら番組内とはいえそれらが横行する芸能界の様子に「否」を唱えたくもなるというもの。SNSの発達により、「1億総メディア化」と言われる現代。視聴者が番組や芸能人を“監視”し、SNSで指摘・拡散することは容易だ。古い体質の大御所芸人や、演出・制作する側も従来の意識を変え、注意を払うべき時代が到来している。

■「嫌だった」だけでは成立しない、いじりとパワハラの境界線は?

 このように一般社会はもちろん、芸能界でも注視されるパワハラだが、誤解されている面も多いという。

「法律的には、単に相手が『嫌だった』というだけではパワーハラスメントは成立しません。パワハラが成立する基準は、【1】優越的な関係に基づいて、【2】必要かつ相当な範囲を超えて、【3】身体的もしくは精神的な苦痛を与えたか等、がポイントになります」

 ここで改めて、上沼・梶原騒動に目を向けてみよう。仮に報道が真実だったとして、この行為はパワハラに該当するのか。報道では、収録中に上沼が延々と叱責し続け、梶原は涙目に。笑いにつながることもなく、そのシーンはお蔵入りにされた、とある。

「パワーハラスメントになるかどうは、それが『演出として許容されている範囲のいじりかどうか』になると思います。これを超えて、身体的もしくは精神的な苦痛を与えた場合、それは違法な行為になるでしょう。ただ、当事者同士が問題なくても、それを観ている視聴者が『演出の範囲を超えてやりすぎ』だと感じるいじりは、いじめを助長したり、誹謗中傷を誘発するため、避けるべきかと考えています。ただ、明確にここはセーフ・アウトという基準が作れるものではないため、その判断は難しいものもあると思います」

「ただ、この内容が真実であったとしても、犯罪に該当する発言、または人格を否定する発言等でない限りは、一回のみであるならパワハラには当たりません。重要なのは、その背景、この前後にも似たようなことが何度もあったかどうかや被害の影響度など。一回だけなら単なる“やりすぎ”。法律的にはパワハラ一歩手前のイエローカードの状況ですね」

 つまり、パワハラと認定されるには、それが日常的な行為であるかどうかが一つの判断基準となる。それには、番組等で表に出てこない、水面下での人間関係が重要だ。水面下でのパワハラが明るみに出た例といえば、TKO・木下隆行の件が記憶に新しい。「クロちゃんの顔面踏みつけ」「後輩に自身のブランドの服を押し売り」などのパワハラを木下は事実と認めたが、こういった問題が表に出てくること自体、芸能界では稀だ。

「実際、これまで私のもとにも、芸能人同士のパワハラ相談はありません。なぜこれらが問題化することが少ないか、表に出てこないかというと、それは『目的を達成できないから』だと思われます。ハラスメントを主張する際、当人には『適切な職場環境で働きたい』という思いがあります。でも芸能界の場合、パワハラを訴えると『使いづらい』と評価され、仕事がなくなる恐れすら出てくる。また、発言力が強いタレントや事務所が、懇意にしている媒体を通じて自分たちに有利な記事を出し、その論調に負けてしまう場合もある。さらに、もし裁判をするならば、タレントにとって大切な“イメージ”が低下してしまう。本末転倒になるため、当人が所属する事務所としても、パワハラを訴えることを避けたいという意向が強いのです」

 つまりハラスメントに関して、芸能界はいまだ透明性が低いということだ。

■師弟関係の変化も…問題を昇華する新たな笑いの誕生

 とはいえ、前述の例を見てもわかる通り、報道や被害を受けた後輩側の声により、少しずつ問題が明るみになることも増えてきた。昨年9月、梅沢富美男による「芸能界にパワハラは通用しない」との発言が物議を醸したが(『梅沢富美男のズバッと聞きます!』フジテレビ系)、これは古くからある、厳しい稽古の元で築く芸能の師弟関係を前提としての言葉だろう。だが、ダウンタウン以降、芸人の世界でも師弟関係は希薄となり、先輩・後輩の様相も変化してきた。「大御所から嫌われたら終わり」という恐れもありながら、先輩からの暴言・暴挙に耐え続ける後輩の図は、徐々にほころびを見せ始めたのかもしれない。

 「あれもこれもパワハラと言ってしまうとお笑いがつまらなくなる」という論調にも頷ける。だが被害者がいる以上、「芸人だから、テレビだから仕方ない」では済まないし、一般視聴者の厳しい目は常に光っている。いじりか、パワハラか。線引きの難しい問題を踏まえて昇華することで、さらに新しい笑いが生まれる可能性もあるのではないか。今まさに、芸人の、番組制作者の、真の腕の見せどころが待たれているように感じられる。

(文/衣輪晋一)

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