“おじさんのハーフパンツ問題”
エンタメNEWS2026年7月3日9:10 AM
賛否が分かれているビジネスシーンの「ハーフパンツ」
記録的な猛暑が続くなか、東京都が推進する「東京クールビズ」では、都庁などの行政機関でハーフパンツ勤務が認められるようになった。その一方で、SNSには「おじさんのハーフパンツ姿は不快」「職場で他人のすね毛を見たくない」といった否定的な声も上がる。そんな逆風の中、スーツ量販店「洋服の青山」を展開する青山商事が、洋服の青山初のビジネス向けハーフパンツを発売し、反響を集めている。賛否が分かれるなか、なぜ“ビジネスハーフパンツ”に挑んだのか。開発を担当した商品第一部の佐藤宏樹さんに、許容範囲やビジネスウェアにおける今後の展開について聞いた。
【写真】爽やか?それとも違和感? 話題の「ビジネス短パン」姿
■「おじさんのスネ毛は見たくない?」 ビジネスシーンにおける“ハーフパンツ”論争
ビジネスにおけるハーフパンツの着用は「あり」か「なし」か。
この論争は「東京クールビズ」で職員のハーフパンツ勤務が認められたことをきっかけに、多くのメディアやSNSで取り上げられた。昨今の暑さは厳しく、合理的だと肯定する意見がある一方で、「ビジネスの場にはふさわしくない」「おじさんのすね毛は見たくない」などの意見が相次ぎ、「それはルッキズムではないか」「男性差別ではないか」といった議論も見られた。「足の露出は生々しく、性的な不快感がある」という声もあり、快適さや節電といった合理性だけでは埋められない心理的な抵抗感があるようだ。
こうした賛否のなか、スーツ市場で大きなシェアを誇る青山商事は、「東京クールビズ」の発表に続く形で、ビジネス用ハーフパンツを発売した。なぜ、わざわざ“鬼門”ともいえる領域に足を踏み入れたのだろうか。
「発表以来、短期間でここまで取材を受けることは珍しく、反響の多さにとても驚いています。洋服の青山としては初の試みで、ハーフパンツを夏のビジネスウエアの新しい選択肢としてほしいと企画しました。企画段階では社内でも賛否両論ありましたが、ビジネスウエアを販売する当社だからこそ提案すべきアイテムだと考えました。これほど話題になるとは思っていませんでしたが、注目されていること自体はとてもありがたいです」
■ユーザーの選択肢を広げる”ビジネス短パン”への挑戦「求められた時にそこにあることが大切」
ビジネスウエアのノウハウを持つ同社にとっても、今回の企画は未開拓の分野、大きなチャレンジだった。社内でも「仕事用の服を買いに来るお客様にハーフパンツが売れるのか」といった懐疑的な意見が出たという。それでも商品化に踏み切った最大の決め手は、“消費者の価値観”の変化だ。実際に、洋服の青山で売れる商品や求められる商品に大きな変化がみられるという。
「以前は週5日スーツを着て通勤するスタイルが主流でしたが、コロナ禍以降、Tシャツやポロシャツが受け入れられるなど、ビジネスウエアの多様化が急速に進んでいます。洋服の青山でも、ネクタイやワイシャツの売り上げが伸び悩む一方で、Tシャツやポロシャツの売り上げが劇的に上がっています。今は議論になってしまうビジネスの場面におけるハーフパンツですが、ビジネスパーソンの多くが当たり前にハーフパンツを履く未来が来ないとは言い切れない。そうなった時に、弊社で取り扱っていないという事態だけは避けたい、というのが販売を決めた理由です」
ビジネスウエアとしては前衛的なハーフパンツの販売だ。もちろん、販売面でのリスクにも配慮している。ハーフパンツ単体で販売するのではなく、同色同素材のジャケット、半袖シャツ、Tシャツ、ロングパンツの全 5 アイテムを自由に組み合わせられる「カセット服」として展開。ハーフパンツの生産数はロングパンツの半分以下に抑えているという。
「商談時はジャケットとロングパンツ、内勤時はシャツとハーフパンツなど、シーンに合わせて組み合わせを変えて着ていただくことを目的としています。誰にも会わない作業があるけれど恰好だけは楽をしたい時、プライベートの時など、ハーフパンツを活用いただけるシーンはある。お客様の選択肢の一つとして、求められた時にそこにあることが大切だと考えています」
カセット服はコスパ・タイパも良く、現代の価値観とも一致する。ポロシャツやTシャツのように、スーツを買いに来た顧客の目に留まる可能性は高いだろう。今回の挑戦であるハーフパンツも、スーツ作りで培ってきた技術を注ぎ込み、節度と品格を備えたビジネスウェアとして設計されたという。では、その“節度と品格”とは、ビジネスシーンにおいてどのように担保されるものなのだろうか。
■ビジネスにおけるハーフパンツとは何か? 「NG」と「成立」を分ける境界線
ビジネスで成立するハーフパンツと、単なる「だらしない格好」となるNGパンツ。その境界線は“相手への敬意”が見られるかどうかにあるという。
「ビジネスシーンにおいては、いかに清潔感があるか。相手が受け取る印象が重要だと認識をしています。色・素材・柄・丈の長さなど、“相手に敬意を払っていること”がしっかり伝わる服装を意識することが大切で、今回のハーフパンツを作るうえでも意識したポイントです」
確かに、ハーフパンツの懸念点としてあげられるのが”生地感”や”丈の長さ”だ。ボディーラインを強調するような”とろみ素材”や華やかで光沢感のある素材も避けたいところ。座ったときに丈が短くなったり、パツパツになったりすることを恐れる声もある。
「丈の長さとシルエットには特にこだわりました。ミリ単位で調整を重ね、立ち姿だけでなく、座った際にも過度な露出を抑える仕様に設計しています。また、裾に向かって細くなるテーパードシルエットを採用することで、足元をすっきりと上品に見せています。素材にもこだわり、シワになりにくいナイロン素材を採用し、“他人にどう見られるか”の懸念をひとつひとつ解消しています」
SNS上では「職場で他人のすね毛を見たくない」といった声も見られるが、この議論について佐藤さんは「様々なメディアから同様の質問を受けますが、会社としての回答は差し控えさせていただいています」。ただ、根幹には「他人からどう見られたいか」を基準としてビジネスシーンのファッションを選んでほしい思いがあると話す。
「”清潔感”や”相手へのリスペクト”の軸がしっかりしていれば、どんなファッションであれ相手への不快感は軽減できます。例えば『スポーティーな印象を持たれすぎてしまうから、大きなロゴ入りのパンツを履くのは止めよう』とか『サンダルや派手な色柄のアイテムをハーフパンツと合わせるのは避けた方がいい』など、自分がどう見られたいかを考えることで、自然とコーディネートが決まってくるはずです。仕事着も多様化しているので、様々な選択肢がありますが、自分の気持ちとTPOのバランスをとって境界を決めてあげることが先決です」
■2~3年後にはスタンダードとなるのか? ビジネスウェアの未来予想図
東京都がハーフパンツ勤務を容認したとはいえ、現時点でビジネスハーフパンツはまだ一般的なアイテムとは言い難い。青山商事としても、ハーフパンツを積極的に推奨するというよりは、働き方やTPOに応じた「選択肢を増やすこと」をまずは目指していくという。
今後もビジネスウェアに求められる“要素”が大きく変わるわけではないと佐藤さんは話す。
「ハーフパンツはまだビジネスウエアとしての地位を獲得していません。ただ、 Tシャツやリュック、スニーカーなど、以前はNGとされていた服装も今は当たり前に着るようになってきています。変化のスピードが速いので、2~3年後にはハーフパンツが当たり前の時代が来るかもしれない、その時に青山商事が商品として取り扱っていない状況はあり得ないと本気で考えています」
もちろん、今後ビジネスシーンにハーフパンツが定着するかどうかは分からない。だが、数年前まで男性の日傘や、ビジネスシーンにおけるTシャツ・スニーカーの着用がここまで広がると予想していた人も多くはなかっただろう。
常識は、賛否両論の積み重ねによって形づくられていくものだ。青山商事のチャレンジが新たな流れを生み出していくのか。その答えは、数年後のオフィスの風景が教えてくれるのではないか。
(文/中西奈津子)
【商品第一部 マネジャー 佐藤宏樹】
2016年入社、4年ほど洋服の青山の店舗を経験後、現部署へ着任。着任後~現在はメンズセットアップやコートを中心に企画を担当。
ORICON NEWS(提供:オリコン)
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