参入から4年、楽天モバイルの勝算

#RICO

エンタメNEWS2024年4月8日9:40 AM

携帯キャリア事業に参入に丸4年、楽天モバイル共同CEOの鈴木和洋氏に独占取材 (C)oricon ME inc.

 2020年に「携帯市場の民主化」を掲げ、携帯キャリア事業に参入した楽天モバイル。本格サービスの開始から本日4月8日で丸4年。携帯市場を取り巻く環境もこの4年間で劇的な変化を遂げ、さまざまな課題に直面しながらも“第4のキャリア”として市場に正しい競争原理をもたらしたことは間違いない。ORICON NEWSでは、同社共同CEOの鈴木和洋氏に独占インタビューを敢行。この4年間の総括、そして、自身が掲げるインクルーシブな社会構造を携帯市場においてどのようにコミットしていくのか? 話を聞いた。

【写真】楽天役員が揃い踏み! 楽天ユーザーの声に真剣な表情で聞き入る三木谷氏

■OTT企業で通信インフラ事業に打って出たのは世界初の挑戦

――鈴木CEOは、1983年に日本IBMに入社。その後も日本マイクロソフトやシスコシステムズなどを経て、22年4月から楽天グループに参画されました。鈴木さんの世間的なイメージでいうと、IoTという分野での日本におけるイノベーターの1人という部分が強いと思います。そんな鈴木さんが外側から見た楽天グループ、そして内側から見た楽天グループについてお聞かせください。

【鈴木CEO】2017年に携帯キャリア事業に参入するという話を聞いたとき、私はシスコシステムズにいました。通信機器を提供する側の人間だったのですが、当時すごくビックリしたのを覚えています。通信事業はいわゆる社会インフラ事業ですが、基本的に新規参入はほとんどない。それは2つの要因があります。1つは社会インフラ事業において規制が非常に多いこと。2つ目は、初期投資がものすごくかかるということ。楽天のように、どんどん新しいことを開拓していくような企業には、いささかマッチしないのでは?と、“外側”にいた際の視点では思えたので、驚きは隠せなかったです。

――先ほど鈴木さんも仰っていましたが、携帯市場に新規参入はありえないというのが定説となっていました。だからこそ、夢物語のように聞こえたし、懐疑的な目で見ざるを得なかった。ましてや、前職で通信機器を提供していたのであれば、尚更“ことの重大さ”を実感しますよね?

【鈴木CEO】そうですね。機器の提供側からすると、本当に驚いた。同時に挑戦をする企業なんだなと感じたことを覚えていますね。それまでにも楽天が挑戦し続けてきたことは知っていましたが、携帯市場にまで挑戦するのかと衝撃を受けました。

――参入障壁は相当なものだったと思いますし、過去に例の無いことだった?
【鈴木CEO】コンテンツやサービスを提供する企業のことをOTT(オーバーザトップ)と言って、GoogleやAmazon、Metaなどが代表的です。楽天もOTTのうちの1つですが、そこから通信インフラ事業に打って出る企業は、世界中を見渡しても1社もなかった。つまり、世界で初めての挑戦だったと思います。通信インフラ事業がコンテンツやサービス事業に拡大していくのはよくあるのですが、その逆は想像も出来なかった。

――22年に楽天グループに参画され、外から見てきた景色と中に入って感じたことの一番の差はどのような部分でしたか?
【鈴木CEO】とにかく決めたら最後までやるという“完遂力”ですね。初志貫徹というか、決めたら必ず完遂するまでやる。「決めたことは最後までやろう」みたいなことは皆が言うんですけど、そのレベルが段違いでした。それとスピード感。楽天グループは従業員数が約3万人というレベルで、たくさんの事業が存在しています。何か新しいことをしようとすると、どうしても時間かかってしまうはずなのに、この規模の組織でこれだけのスピード感を持っている企業は見たことがなかった。

――それは鈴木さんが今まで歴任されてきた企業と比べても?
【鈴木CEO】全く違います。「今日決めたことは今日からやる」イメージですね。一般的な企業は、決めたことの計画書を承認してもらい半年くらいかけてやるとか、1年かけてやるというのが普通ですから。

――その決断の速さと、最後までやり遂げる完遂力があったからこその携帯市場への参入だったんですね。
【鈴木CEO】その通りです。楽天が携帯キャリア事業に打って出たときに、周りからは「無謀な挑戦だ」などと言われました。でも、過去30年、なぜ日本がダメになってしまったのかを考えると、“無謀な挑戦”をする人がいなかったからだと思うんです。挑戦する人が本当にいなくなったら、もう日本は終わりだと思います。このまま世界の中でジリ貧になっていくしかない。

――国民性もありますが、無謀な挑戦をどうしても切り捨ててしまう傾向があります。
【鈴木CEO】この30年間、アメリカと日本でどこに一番大きく差がついたのかというと、アメリカはGAFAMに代表されるような新しい企業がどんどん出てきて成長を牽引したことに尽きます。日本でもそのような“挑戦する企業”が無くなってしまったら、本当の意味で終わりを迎えてしまう。だからこそ、この挑戦の火を消してはいけない。

――楽天グループの携帯キャリア事業への参入は、「挑戦の火」を消さないという所信表明でもある。
【鈴木CEO】そもそも大企業がイノベーションを起こすのは難しい。大企業のビジネスモデルは、基本的には現状容認型なんです。今日やっているビジネスが明日もつつがなく行われることを前提に最適化されている。逆に言えば、「今を守る」というDNAが構築されていることで、イノベーションを起こすことが極めて難しい状況に陥ってしまう。一方、楽天グループがなすべきことは、前進することであり、「今を守る」ことでは無い。

――2020年からの楽天モバイルの本格的な参入で、ようやく市場競争や市場原理がもたらされたという印象をユーザーも持った。17年に市場参入に表明した際、「携帯市場の民主化」を掲げていましたが、同スローガンを鈴木さんはどう捉えていましたか?
【鈴木CEO】それまでの携帯市場には、消費者に選択肢がなかった。どこの携帯事業者も同じようなプランで同じような価格。テレビCMも似ているし、店舗の作りもほとんど同じ。結局、同じようなものが3つあって、どれを使っても同じという印象を消費者に与えてきた。ある意味、消費者の選択肢を奪っているマーケットだったと思います。だからこそ「携帯市場の民主化」というスローガンは、携帯市場に“新たな選択肢”を提供するという意味なんだと捉えました。

――楽天モバイルの参入で、“当たり前の”市場原理がやっともたらされたと感じるユーザーも多かった。現に価格競争も始まり、携帯代に月1、2万を払っていたのが遠い昔に感じます。
【鈴木CEO】結果的に携帯電話代として月2000円ほど下がっている。これを全世帯で計算すると、年間4兆円ほどになります。この4兆円が新しい投資に回ったんじゃないかなと僕は思っていて。例えば、浮いたお金で新しい金融商品を買ったりすれば、それは新しい投資に向かっているわけですよね。経済の中でお金が回るようにしたという貢献はすごく大きいと思います。

――新しいことをやると、批判の方が大きく捉えられてしまいますよね。ただ、近年は風向きも変わってきた印象はあります。第4のキャリアとして楽天モバイルが市場に入ったことで価格破壊が起こったことは素直に評価すべきだという声も増えた。2月からスタートした「最強家族プログラム」への高評価や法人契約の伸長も、それを物語っていると言えます。

【鈴木CEO】法人契約に関しては、1年強で1万社のお客様を獲得できたというのは1つの成果だと思っています。「最強家族プログラム」もお客様からの反応も上々です。これまでも十分に安いプランを提供してきましたが、「最強家族プログラム」をローンチして、シンボリックなプランはやはり必要なんだな、ということを改めて感じましたね。“家族”という文字から与えるインパクトは、我々が想定したしていた以上に大きかったと思います。

――3月12日からは、22歳以下を対象とした「最強青春プログラム」もスタートしています。先ほど、鈴木さんも仰っていましたが、すでに十分料金が安いのにさらに安くしていくという戦略に至った経緯は?
【鈴木CEO】低価格という部分がまだまだ伝わっていなかった、浸透しきれていなかったという部分があると思うんです。そこで「最強家族プログラム」や「最強青春プログラム」などを改めてローンチすることで、改めて注目される。「もともと十分に安い」ことを改めて再認識いただけたのではと考えています。

――一方、安さだけではなく、質も向上させていかなくてはならない。特に社会インフラを担う通信事業ならば、ことさらユーザーから注視されます。サービス向上と低価格を維持するバランスを現在はどのように見ているのでしょうか?

【鈴木CEO】当然、価格とそれと見合うサービスの品質はビジネスの両輪だと思っています。低価格だけではなく、通信のカバレッジや品質といった部分もかなり改善に改善を重ねてきています。第三者機関のさまざまなリサーチレポートを見ても、楽天モバイルがNo.1を獲得しているカテゴリーも多い。これからも価格とサービスレベルの両輪でビジネスを回していくという考え方は変わりません。

――新たに割当されたプラチナバンド(700MHz)への期待感も非常に大きいです。そういった期待感にどう応えていくのか、鈴木さんの思いを教えてください。
【鈴木CEO】通信品質の改善は当然やっているのですが、それを評価いただくのはユーザーの皆様です。「本当に良くなった」と認識していただくために、お客様の声を積極的に取得し、常にモニタリングをしています。実際に使っていただいているお客様の声がどれだけ変わるかというところを我々は一番見ていますので、そこは手前味噌にならないように常に意識しているポイントです。

――鈴木さんが以前から「競争ではなく共存。誰にでも平等にチャンスが与えられる社会を目指す」ことを進言されています。1982年に社会人になり、様々な経験を通して、なぜこのような考えに至ったのでしょうか?
【鈴木CEO】私が新入社員だった当時は、とにかく競争に勝つことが一番正しいんだという社会でした。競争が進歩を生むと言われて育ったんです。でも、今の日本をフラットに見ると、新しいマーケットを“皆で作る”という発想があってもいいのではないか? 人口は減少するので携帯市場全体の加入者数は劇的には伸びない。そうすると、通信の世界においても新しいマーケットを想像していく必要がある。そこは競争だけではなくて、共に作るような考え方があってもいいと思う。

――技術や情報を独占することによる優位性を重要視するのがこれまでの考えだとすると、鈴木さんが見据えているのは、共有することで全体の底上げや新しい取り組みが生まれる可能性だと。まさにインクルーシブな考え方であり、携帯市場にこそ必要な構造だなと思います。
【鈴木CEO】仰る通りです。社会インフラだからこそ、よりインクルーシブな考えが必要だと思います。全体を底上げすることで、ユーザーの皆様により快適な生活をご提供する。これは4キャリア全ての命題です。ビジネスの観点から見ても、例えば、1兆円のマーケットで競争するよりも、新たに10兆円のマーケットを作り出して、そこでみんなで切磋琢磨するほうが遥かに成長できる可能性がある。これからはそういう視点も積極的に取り入れるべきだと思います。

――ただ、一方では、“共存”や“共栄”が、単なる“模倣”に着地してしまう可能性もはらんでいます。つまり与えられるのみで、そこに創造性を持たないような模倣品のみが蔓延ってしまう状況です。受け身の姿勢では新しいものは生まれない。そのバランスを鈴木さんはどう考えますか?
【鈴木CEO】おそらく日本のような少子高齢化のなかで、今後大きな成長が見込まれないマーケットにおいては、“コピー型”で生き残っていける会社は非常に少ないと思います。だからこそ新しいマーケットの創造が必要だと思います。

――この議論は生成AIを取り巻く環境とも似ているのかなと。短絡的に見ると、生成AIがなんでもやってくれるという考えになり、人間が考えることを放棄してしまうことにもなりかねない。でも賢く最新の出来たる技術を活用している企業は、その距離感が絶妙です。
【鈴木CEO】そうですね。ですから、僕はどちらかというと、AIの社会が進むと、より直感力などが重要になってくる気がします。AIの裏をかくくらいの直感力がむしろ重要になってくる。我々も引き続きDXには注力していきますが、進化したデジタル技術を駆使しつつ、いかに楽天独自の新しいサービスを矢継ぎ早に提供できるのか? その取り組みが刺激となり、より一層の“携帯市場の民主化”につながっていくと考えています。

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