日本の“観光コンテンツ”の現在地

#ボーカル

エンタメNEWS2025年6月30日9:10 AM

「カラオケ」は観光の切り札になるのか(画像提供:エクシング)

 日本で生まれて半世紀。今やカラオケは世界中で楽しまれるレジャーとなった。とは言え、日本と世界のカラオケ文化はまったく異なり、ひとたび日本のカラオケを体験した外国人からは、驚きと感動の声が上がることも多いという。オーバーツーリズムの解決手段としても期待される、訪日観光コンテンツとしてのカラオケの可能性を探った。

【画像】こんなことできるの!?カラオケでファンミに、遠くの人と繋がれるなんて…

■日本とは「別物」 海外の“カラオケ文化”とは

 訪日観光客が増え続けており、今年も過去最多を記録した昨年(約3687万人)を大幅に更新することが予測されている。日中は定番の観光地から、X(旧Twitter)やInstagramなどのSNSで話題となったニッチなスポットまでインバウンドで大盛況。一方で観光庁などの調査によると、訪日旅行の不満として「ナイトライフが充実していない」ことを挙げる外国人は多く、ナイトタイムエコノミーの活性が観光立国を推進する上での課題となっている。

 その施策事例として、日本のディープなナイトカルチャーを体験できる訪日外国人向けのスナックツアー企画が、全国各地で行われているという。とは言え、アルコールを伴う場に抵抗のある人や、未成年・ファミリー層にとっては参加のハードルが高いのも現実だ。

 スナックといえばカラオケだが、全国カラオケ事業者協会では、世代を問わない<最高の訪日体験>の提供を訪日外国人にPRする「JAPAN=KARAOKE」プロジェクトを推進している。

 日本発祥の娯楽文化・カラオケは、今や世界中に普及した。そのためか特にアジア諸国からの訪日外国人にとっては、「自国にもあるカラオケをわざわざ日本に来てまで…」と、カラオケボックスを利用するケース訪日外国人はまだまだ多くないのが現状だ。

 しかし通信カラオケ大手のJOYSOUNDを展開するエクシングの社員で、海外経験の豊富なスタッフは「日本と海外のカラオケはまったく別物」と指摘。ひとたび日本のカラオケを味わえば、「ハマる外国の方は多いのではないか」と同プロジェクトに期待を寄せている。

■「歌の上手さは関係ない」 欧米では“場を盛り上げることが重要”

 同スタッフによると、アジアでは比較的日本に近いスタイル(ボックスなどの個室形態)でカラオケが楽しまれている一方で、欧米のカラオケ文化はまったく異なるのだという。

「一般に欧米でカラオケが設置されているのは、パブやバーといったお酒を提供する飲食店です。店にはステージがあることも多く、いわば不特定多数の人の前で歌われます。また、聴く側も歌っている方が知らない人でもノリノリで踊ったり、コール&レスポンスで盛り上がったりするのが、欧米における定番のカラオケの楽しみ方です」

 ステージに立って歌うなんて、きっと歌に自信がある人ばかりかと思いきや、意外にも「お世辞にも上手とは言えない方」も少なくないのだとか。それでも楽しそうに歌う姿が印象的だったそうです。

「欧米には義務教育で日本でおなじみの合唱などに代表されるような、歌を歌うことを学ぶ音楽の音楽の授業がない国も多いため、音程やリズムを外さずに歌うスキルを身につけている方は少数派。世界的に見ても、日本人の歌唱力水準は非常に高いんです。さらに採点機能が定着しているように、日本人は完璧を求める傾向にあるのかもしれません。対して欧米人は歌の上手下手よりも、場を盛り上げることが重要。そのため<誰もが知っている曲>が選曲されることが多いんです」

 そもそも海外のカラオケは、権利処理のハードルの高さから曲数が極めて少なく、「選曲の選択肢が狭いことも、往年のヒット曲が選曲されやすい理由かもしれません」と同スタッフは推察する。

「日本のカラオケ機器は、現地での権利処理のハードルの高さ関係から一切輸出ができていませんされていません。これは欧米だけでなく、日本とカラオケ文化が比較的近いアジアも同様です。そのため『最新のアニソンを歌いたい』という目的で訪日し、カラオケボックスのリピーターになってくださる外国の方も徐々に増えています」

■「アイドル」「ドライフラワー」も上位に、外国人に歌われている“日本の曲”は?

 JOYSOUNDが集計した「外国人が歌っている日本の曲ランキング」でも、アニソンはやはり圧倒的に人気だ。加えて3位「Lemon」(米津玄師)、5位「怪獣の花唄」(Vaundy)、6位「ドライフラワー」(優里)などアニメとは関連のない曲も上位にランクインしており、J-POPが確実にグローバル化していることが伺える。

「とは言え、日本のカラオケを体験したことのない訪日外国人がまだまだ多数派です。先日、特にカラオケ文化がまったく異なる欧米の方がどんな反応をされるか、調査を兼ねて40人の訪日していたオーストラリア人をカラオケボックスに連れていったことがありました。その半数の方が『マイクを握って歌ったことは一度もない』と回答されていました」

 前述の通り、欧米におけるカラオケは不特定多数の前で歌うスタイルが一般的であり、自らステージに上がらない限りマイクは回ってこない。日本人であればいかにシャイな人でも一度はカラオケを歌ったことがあるだろうし、一人カラオケも定着している。しかし欧米人には「自分が歌う」という発想すらない人も多いわけだ。

「その日もはじめの1時間ほどは、アニメ映像や国内外の本人映像を見るだけで終わってしまいました。海外のカラオケは権利の関係でこうした映像が使えないため、それだけでも十分楽しめたようです。ところがいざ歌いましょうとなると、『1曲は覚えていない、歌えない』と躊躇されてしまいました。

 そこでサビの盛り上がりパートだけを歌える<サビカラ>や、うろ覚えの歌をガイドする<ボーカルアシスト機能>を紹介したところ、1人また1人とマイクを持ち、おずおずと歌い始め──。最終的にはみなさん『もっと歌いたい!』と延長するほど楽しまれていました」

■高評価と課題が共存 訪日外国人が感じたカラオケの“分かりにくさ”

 初めての日本のカラオケで、未体験の「歌う楽しさ」を存分に味わった欧米人たち。さらにパーティやアルコール文化と密接な欧米とは異なり、「ファミリー利用しやすい健全性、安全性」「カラオケルームの清潔感」「フードやドリンクの充実」などにも高い評価が上がったという。

「一方で料金設定が複雑、自国のカラオケマシンにはない機能が多くて混乱するなど、さまざまな課題も浮き彫りに。初めて日本のカラオケを利用していただく外国人向けに、わかりやすく丁寧なご案内をする工夫も必要だと実感しました」

 日本でカラオケが生まれて半世紀。最近では、JOYSOUNDが、遠く離れたカラオケルーム同士をつないで遠隔地にいる友だちとカラオケができる機種「X PARK」を展開が登場するなど、日本のカラオケの進化はあまりにも目覚ましく、それゆえ外国人にとっては理解が追いつかない側面もあるようだ。

「大前提としてビル1棟がカラオケ店になっていることに驚く訪日外国人の方も多いんです。しかし、ひとたび慣れたらこれほど楽しくて旅行に便利なレジャーはありません。カラオケボックスは全国にありますし、個人から大人数まで対応可能ですので、例えば地方旅行の電車の待ち時間など、急なスキマ時間を埋めるのにも最適です。もっと気軽にカラオケを利用していただき、その体験をSNSなどで自国のみなさんに発信していただく、といったサイクルを生み出したいですね」

 オーバーツーリズム対策として<観光の分散>が求められる今、場所はもとより時間の分散(昼→夜)も課題となっている。場所と時間の選択肢を広げる意味でも、訪日外国人のカラオケの利用促進はオーバーツーリズムを解消する一助になるかもしれない。何より日本文化としてのJAPAN=KARAOKEの魅力を多くの国の人々に味わってほしいと願うばかりだ。

取材・文/児玉澄子

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