高まる出社回帰…Z世代望む働き方
エンタメNEWS2025年8月27日9:10 AM
オフィス共用部『BLUE SKY LOUNGE』、東京湾を望むエリアも
コロナ禍が落ち着いて2年強、世の中はリモートワークから出社回帰の風潮へと変わってきている。しかし、一度リモートを経験すると、どうしても出社のデメリットが気になるもので、フル出社を希望する人はごくわずかに留まるという。やはり、“会社=心身ともに疲れる場所”なのだろうか。だが、もしもそれが変わるとしたら? オフィスビルを手掛けるデベロッパーに、その課題に挑んだ若手社員がいる。Z世代が思う“働きたいオフィス”は、果たして実現できるのか――。
【写真】え、ここがオフィス!? サウナ? 驚きの充実度に嫉妬しかない…
■新社会人にとって会社は“バケモノ”、リモートから始まったZ世代が望む働き方
“働きたいオフィス”の実現に挑戦したのは、デベロッパー大手の野村不動産で働く矢間拓仁さん、28歳。大学院時代、京都の茶畑景観の地形をデジタル技術を用いて測量する研究に取り組んだ経験から、「街づくりを舞台に、新しい技術を用いて価値を生み出す仕事」に興味を持ち、2022年に野村不動産に入社した。
そんな矢間さんが「働きやすさ」について考えるようになったのは、コロナ禍真っただ中に就職して入社当初からリモートワークを余儀なくされた友人たちの話を聞いたことがきっかけだった。
「会社って学生にとっては未知の世界ですから、僕も入社前には期待感もありながら、”バケモノ”の中に入っていくような不安と怖さを抱きました。そんな中で、入社からオンラインだけという働き方はとてもやりづらかっただろうなと考えさせられました」
とはいえ、矢間さんは「リモートワークを否定したくない」ともキッパリ。
「つい、『出社=通勤時間がムダだがコミュニケーションが捗る』と、『リモート=通勤時間はなくて快適だがコミュニケーションが希薄』というように二元論で語られがちですが、選択肢はその2つだけではありません。家や会社のほかにも、シェアオフィスやカフェのようなサードプレイス、公園など、働く場所はいろいろ持っていていい。その中からその日の仕事内容やマインドに合わせて主体的に選び取れるリテラシーが、これからの時代には重要だと思うんです。そうした働き方が生産性アップにつながることも、一橋大学との共同研究データによって証明されてきています証明されています」
まさに、コロナ禍に社会人生活をスタートさせた世代ならではの考え方といえるかもしれない。
そんな矢間さんが入社後に配属されたのが、同社が手掛ける東京・浜松町エリアの大規模複合開発・BLUE FRONT SHIBAURA(以下、ブルーフロント芝浦)のプロジェクトだった。“水と緑とオフィス・商業施設の融合”をテーマに2棟のビルから成る本プロジェクトは、9月1日に1棟目のTOWER Sが開業。低層に商業施設、中間層にオフィス、高層にホテルが設けられた43階建てで、矢間さんはワーカー向けのデジタルサービスの企画を任された。
共用部とはその名の通り、入居する企業の社員なら誰もが使えるスペースのこと。「BLUE SKY LOUNGE」と名づけられたこのスペースは、都心にいながらにして自然を感じ、一人一人がコンディションに合わせたワークシーンを選択できる「東京における新しい働き方=TOKYO WORKation」をコンセプトに設計。特に28階では、都内有数の約1,500坪のメガプレートをまるまる共用部化しており、6つのエリアが設けられている。
まず、オフィスの概念を覆されるのが、東京湾岸を臨む板張りフロアにソファやデッキチェアが配された「バケーションエリア」とそれに続く「屋外テラスエリア」。さらに、緑に包まれた「ラウンジエリア」、社外の人とのコミュニケーションに使える「共創エリア」、個室ブースも備えた「会議室エリア」。そして、フィットネスジムやメディテーションルーム、仮眠室、サウナ、岩盤浴(女性用)を備えた「ウェルネスエリア」と、多様なワークスペースとリフレッシュスペースがある。
その洒落た空間と充実の設備に、お披露目以降「こんなところで働きたい!」といった声も多数。一見、このエリアは「これだけ素敵なら使いたいでしょ?」と出社率向上を目指すためものかと思いきや、矢間さんはあくまで「出社率ではなく生産性向上を目指し、そのために働き方の選択肢を広げることが重要」と言い切る。
「オフィスの意義が多様化する今だからこそ、デベロッパーの使命は今まで体験したことがない働き方の選択肢を提供することだと思っていて。自然と都市が共存する芝浦だからこそ、その立地特性を生かし、ここでしか体験できない選択肢を提案することができます。そのシンボルが28階の『BLUE SKY LOUNGE』であり、ユーザーの働く場所の選択肢を大きく拡張し、生産性向上に役立てればと思っています」
■「ハード面を整えるだけではダメ」、使用ためらう日本人に“免罪符”
たしかに、広大な空の下、風を浴びながら眼下に東京湾とビル群を見下ろす…など、ほとんどの人が選択肢に持ち得ない環境だ。とはいえ、「ハード面を整えるだけではダメ」と矢間さんは続ける。
「共用部が充実した海外の最先端のオフィスビルを視察しましたが、作っただけでは持て余してしまう可能性があることを目の当たりにしました。使う側にとっては、どこに何があるかわからない、行くきっかけがない。運営側にとっては利用状況のデータがとれないために改善につなげにくい、というのがその要因でした」
「ならば、その課題を解決できれば世界でも抜きん出たオフィスになるのではないか」。そんな考えから着目したのが、ユーザー一人一人に合わせて選択肢を提案できる“アプリ”の開発だった。
アプリは、用途や人数に合わせたワークスペース予約ができるだけでなく、「シティビュー」「クリエイティブ」「緑に囲まれた」「チームで仲を深めたい」など気分に合わせて選択・予約できるWORK」に特化した機能を搭載。また、ブルーフロント芝浦ならではの取り組みとして、「WELLNESS」に特化した機能も作った。
ただ、「仕事にまつわる施設は積極的に使ってもらえるが、ウェルネス施設は必須ではないだけに、さらに人に寄り添ったアプローチが必要になる」という思いがあった。そこから、ブルーフロントアプリにはスマホカメラで10秒間顔を映すと、ヘモグロビン色素成分の時間変化からバイタルを測定し、それに合った過ごし方をレコメンドする機能を搭載。これにより、BLUE FRONT SHIBAURAの飲食店メニューや、ジムのエクササイズメニュー、サウナでのリラクゼーションメニューなど、今の自分に必要な過ごし方がレコメンドされるというサービスを実現した。今日のお昼は何を食べるか悩まなくても済むし、ジムに通い慣れていない人でも隙間時間に「ちょっと運動してみよう」という行動のきっかけになるというわけだ。
さらに、バイタルを基にしたレコメンドにはこんな利点も。例えば、バケーションエリアでソファに寝そべって仕事をすることも可能とはいえ、サボっていると思われそうで利用を躊躇しがちなのが日本人の性(さが)。しかし、アプリに「自律神経が活発すぎる状態なので、リラックスできる環境のエリアで働くこと」と推奨されれば、「バイタル上、これが自分には必要なのだ」という大義名分、いわば”免罪符”となる。
このアプリは、スマホ内のヘルスケアアプリと連携して健康データを蓄積することもできるのだが、だからといって、「強制されて毎日やらなければいけないものにはしたくない」とのこと。理由はやはり、あくまで「(働き方の)選択肢を広げること」に主眼がおかれているからだ。
「我々はここで働く一人一人に寄り添い、オフィスを疲れる場所ではなく、元気に、そして健康になれる場所に変えられるよう努めたいと考えています。一人一人の健康意識が集まって、このビルに入居する企業の健康経営に貢献できれば」と矢間さん。実際、豊かな共用部と働く人に寄り添った施策を知って、入居を決めた企業もあるという。
「『お昼ご飯を食べる時に使っているよ』とか『これがあるから初めてジムに行ってみたよ』など、行動変容のきっかけになるような声をいただけたらうれしいですね。アプリを使って毎日違う体験を生活に組み込んで、自分だけの新しい働き方を見つけてもらえたらめちゃくちゃうれしいです。これから、入居する企業の皆さまはもちろん、私たちもこのビルに入る生活者として体験しながら検証・改善
していきたい。このノウハウを蓄積していけば、他のビルにも生かせるかもしれない」
今、多くの地区で開発・再開発が行われ、次々にビルが誕生している東京。多くは商業施設、オフィス、ホテルなど似た構成であることから、アレコレ言われることも多々。だが、同じ人々が長い時間を過ごすわりに見過ごされがちなのが、オフィスエリアの存在だ。このエリア全体にテーマを持たせ、新たな付加価値を提示するのは個々の企業では難しく、まさにデベロッパーの腕の見せどころ。コロナ禍以降、これまでにない働き方を経験してきた世代も加わり、作り上げるオフィスとは…。それが、「どこも同じ」と言われがちなビルの大きな個性になるかもしれない。
(文:河上いつ子)
ORICON NEWS(提供:オリコン)
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