『ベイブレード』なぜベーゴマ人気

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エンタメNEWS2024年4月10日9:10 AM

ベイブレード大会で闘志を燃やす子どもたち(C)TOMY

 2023年7月にタカラトミーから発売された『BEYBLADE X(ベイブレードエックス)』。10万個を超えればヒットと言われる玩具業界で、国内累計出荷数が200万個以上を突破する大ヒット商品だ。この「BEYBLADE X」、もとを辿れば初代「ベイブレード」の発売は1999年。今年で25周年を迎えるロングヒットコンテンツである。少子化という逆風が吹く玩具業界の中で、なぜ「ベイブレード」は四半世紀にわたって愛され続けるのか。そこには子ども時代“第1世代”だった担当者たちのベイブレード愛があった。

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■過去にベーゴマで2度の“失敗”も…それでもベーゴマにこだわり続けたワケ

 販売当初は、これまでの『ベイブレード』を愛してきた既存ユーザーの購入が大半を占めていた「BEYBLADE X」。しかし2023年10月のアニメ放送、クリスマスを経て新規ユーザーとなる小学生ら子どもたちの購入が激増。今は購入者の8割を子どもが占めるという。

「やっぱり年末年始を超えたあたりから広がりをリアルに感じるようになって。自分が担当した商品の中でも一番の感覚だったので、とても嬉しかったですね」(タカラトミー グローバルベイブレード事業部 マーケティング課・篠永恭平さん)

 新規ユーザー獲得の背景はそれだけではない。第4世代『BEYBLADE X』はよりスポーツ性を増し、プレイヤーだけではなく観客をも魅了するGEAR SPORTS(ギアスポーツ)へと進化させていることもあり、これまでサッカーやバレーボール、ラグビーなどスポーツの試合で体験会を開催するなど、「一度触ってもらう」機会を増やすことに注力した戦略も功を奏した。

「『BEYBLADE X』はこれまでの世代の要素をすべて詰めた上で、“X(エクストリーム)ダッシュ”という新たないいギミックを発明できた自負があります。一度実際にやってみてもらえば、その面白さが伝わる確信がありました。結局はモノの面白さが全てなので」(タカラトミーグローバルベイブレード事業部 マーケティング課 堀川亮さん)

 “X(エクストリーム)ダッシュ”とはスタジアムと呼ばれるベイブレードを回す台の周囲についた“レール”とコマの軸についた“ギヤ”、ふたつの凹凸がかみ合うことで、ベイブレードが加速する仕組みのこと。このギミックによってレールに触れるととコマが加速。さらには加速したままコマ同士がぶつかりやすくなる設計がされているため、過去最高に激しいぶつかり合いが起こるようになった。一

「前の世代ではコマ同士が激しくぶつかることもなく数分が経って、だんだん自分のコマが減速して『あ、負けるな……』と思いながら時間が経つのを待つ、みたいな尻すぼみ感があるバトルが時々あったんです。やっぱり盛り上がるのはぶつかり合うところだからなのでそこを強化しました。1回のバトルもSNSにアップしやすい1分以内で終わるように調整しており、時代にも合った進化ができたと思っています」(堀川)

 いまや、タカラトミーを代表する商品のひとつとなった「ベイブレード」だが、タカラトミーの前身、タカラにはすでにコマの玩具として「すげゴマ」(1995年)「バトルトップ」(1997年)を発売した過去がある。しかし、思うような業績を残せなかった経験から、発売には難色を示す社内の声もあった。それでも言わば“三度目の正直”に挑戦しようと決意した理由は、コマそのものの魅力にある。

「コマは、紐を巻いて自分の力で動かす。その自分の力がのったコマが、相手と激しくぶつかり合って勝利するのが気持ちいいんです」(篠永)

 高速回転するコマ同士をぶつける遊びは本能に根差したおもしろい遊びだった。コマの魅力を信じた開発チームは、社内の逆風にも負けず開発を継続。当時から人気となっていたTCG(トレーディングカードゲーム)に着想を得て、カードでデッキを組むようにコマのパーツを自分自身で組み替えられるというカスタマイズ・コレクション要素を取り入れた。コマ自体の魅力と、流行から時代を読んだ発想力。ふたつを兼ね備えた第一世代となる『爆転シュート ベイブレード』(1999年)は爆発的にヒット。全国の小学生を熱狂の渦に巻き込んだ。

■爆発的ヒット後の衰退ムードの中、起死回生にかけた4年間

 しかし繁栄のあとには衰退あり。トレンドを巻き起こしたものの宿命を『ベイブレード』も避けては通れなかった。

「簡単に言えば飽きがきて、子ども達が他の遊びをするようになったんです」(堀川)

 ちょうど2008年の第二世代スタート期に入社した堀川さんは、当時の状況をこう振り返る。巻き返しとなる新しいギミックを開発することに注力した。開発の目的は「より面白いバトルを生み出す」という明確な一点のみ。しかしその方法は無数に存在する。より激しくぶつかり合うためにスタジアムを狭くする、回転力を上げてスピードを速くする……。いろんなアイデアをもとに試作品が作られ、イメージとは違う結果になったことも数えきれない。

「『ひとつの試作品を作るのにも1ヵ月くらいかかるので一年間で試せるモデルも限られるので、試作したものの中でシリーズ化されたのは1%くらいですね」(堀川)

 多くの廃案を経てたどり着いたのは「コマの周囲をプラスチックからメタルに変更する」という素材の変化。コマ自体のビジュアルを強化するとともに、ぶつかった時の音や激しさもグレードアップ。第二世代となる『メタルファイト ベイブレード』は見事、2度目のヒットに成功した。

■“妖怪ウォッチ”の記録的ブームで難航した2度目の危機 突破口は意外な人からの一言

 二度目の危機は第二世代の人気が落ち着き、第三世代開発へと舵を切った2013年。奇しくも時期がこちらも記録的ヒットとなった“妖怪ウォッチ”ブームと重なり、他製品は軒並み苦戦状態。社内にも「しばらくは何を出しても売れない」という雰囲気が蔓延していたという。しかしベイブレード開発チームは、「物を集めることにみんなが集中している今だからこそ、『ぶつけて壊す』遊び方があったら新鮮に映るはず」と、新しいテーマを発案し、開発をスタートした。

「アニメでもよく相手がバラバラに破壊する演出ってありますよね。そこで『相手のコマを倒して壊せたら面白いんじゃね?』くらいの単純な発想ではじめは進めていたんですが、いざ試作品を作ってみたら再起不能なほどにバラバラになってしまって。しかも破片が飛び散って危ないし、これは無理だと思って一度諦めたんです」(堀川)

 しかしその後の路線はどれも不発。開発は一時暗礁に乗り上げた。そこで同僚である別部署の女性に相談。チーム内のいわゆる玄人視点のアイディアに限界を感じ、コマやバトルに全く興味のない視点からのアドバイスを求めた。すると彼女からは「相手のコマが壊れたらいいんじゃないですか。そういうのってスカッとして気持ちがいいし」と返事が。彼女へのイメージからは遠い、意外な返答に「ぶつけて壊す」路線にはやはり需要があると確信。再チャレンジを決意した。今回も試作品の山を築きつつも、現状のぶつかる毎にパーツが外れて最終的に3つに分かれるコマの開発に成功。分裂したコマが万が一にもスタジアムの外まで飛ぶ可能性を考慮し、安全面を優先してスタジアムを覆うカバーを付けることになった。

「安全すぎて面白さが薄れてしまうのではないかと最初は危惧していたのですが、カバーを付けることでばらけたパーツもスタジアムの中でアクションするから、より迫力が出せるようになって。この時に『これはいける』と確信しました」(堀川)

 かくして第三世代『ベイブレードバースト』(2015年)が発売。見事3度目のヒットとなった。

■「自分がハマったもので子どもと一緒に遊べるって、すごく素敵なこと」“子ども向け”玩具から“親子向け”へ

 近年息の長いアニメや玩具コンテンツの中には、親子で一緒に遊び、コミュニケーションツールの役割を担っているものも多いが「ベイブレード」ももちろんそれに当てはまる。

「自分がハマったもので子どもと一緒に遊べるって、すごく素敵なことですよね。それに第二世代から第三世代にかけて、大人ユーザーと呼ばれる方がどんどん増えていったというのはSNSの反応などでかなり感じていました」(篠永)

 第一世代は現在20代後半から30代前半。自由に使えるお金がある世代であると同時に、SNSなどで活躍するインフルエンサーが多いのもこの世代。YouTubeに製品を紹介した動画が投稿されることも多々あり、それを観た子どもたちが「ベイブレード」に興味を持つという構図も出来上がっていた。さらに大人ユーザーの存在が、第三世代から間をおかない第四世代誕生に繋がった。

「各世代ごとの製品には互換性がないので、新世代を導入するときには、全てを刷新してもらわなければいけないんです。そのハードルを超えて新しい世代を使ってもらえるかというのは毎回一番の不安要素なんですが、第4世代は、長く『ベイブレード』を愛してくれたユーザーの方々にも面白いと思ってもらえる自信はありました。」(篠永)

 ちなみに堀川さんも、そして篠永さんも第一世代からのベイブレード愛好者。製品への愛があるからこそ、出口の見えないトンネルのような開発期間も「苦になったことはない」と言う。

「自分たちの製品がめちゃくちゃ面白いってずっと思ってますから。実際第四世代スタートも理由はいろいろ述べましたが、『面白そうだからやってみよう』って感じです(笑)」(堀川)

「僕自身、小学生の時に転校を経験しているんです。誰も知っている人がいなくて不安な中、最初の友達ができたきっかけは『ベイブレード』でした。その体験が今でも僕のベースにありますし、『ベイブレード』が今でもどこかで誰かと誰かをつなぐ架け橋になっていたら嬉しいですね」(篠永)

 その人気は性別年代、そして国籍を問わず広がってきており、今や世界80以上の国と地域で累計5.2億個以上が出荷されている。近年では海外での大会も行われ、市民レベルでの広がりを見せている。

「2019年にパリで世界大会を行ったのですが、その帰りの空港で手荷物を預けた後に出場者に貸していた『ベイスタジアム』(ベイブレードを戦わせるための格闘台)を渡されて。仕方なくむき出しのまま手にもって出国審査をしたんです。そしたら警備員の方が『あなたもベイブレードをやるのか?私も大好きなんだ』と英語で話しかけてきてくれて。『僕はベイブレードの開発者なんだ』と返したら、隣の女性に伝えにいったんです。そしたら彼女もやってきて、『私もやってたわよ!』って」(堀川)

 ちなみに「BEYBLADE X」は「――もう、遊びじゃない。ベイブレードはスポーツへ」というキャッチコピーとともに発売された。そのコピーの背景にはベイブレードを文化的存在として広めていきたいというビジョンがある。

「やっぱり過去世代を遊んでいた方からすると、『ベイブレードって昔流行っていたおもちゃだよね』という認識が強いんですよ。そこを覆すべく、世代を問わず楽しめるスポーツとして進化させていき、文化として根付いていくようにしたい」(篠永)

「日本のものづくりで世界で通用しているものはまだまだ少ないので、日本発のもので世界を目指していけたら最高に面白いと思うんです。ベイブレード自体にはその力が十分にありますから」(堀川)

 言葉が通じなくても、言葉が話せなくても一緒にバトルすることができる。体格も関係ないし誰でも平等に楽しめる。それが「『ベイブレード』の魅力である」と口を揃えるふたり。開発者の熱意、そしてユーザーの愛がある限り、「ベイブレード」はこれからも進化を続ける。
(取材・文/原智香)

(C)Homura Kawamoto, Hikaru Muno, Posuka Demizu, BBXProject, TV TOKYO
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